エラーや三振のあと、気持ちを引きずって次のプレーまで崩れてしまう。そんな野球選手のために、セルフトーク(自分への声かけ)とリセット動作を使った切り替え方を解説します。
この記事でわかること
- ミスを引きずるのは、意識が「過去」と「未来」に向いているから
- 短く・肯定形で・自分で決めるセルフトークのコツ
- リセット動作と呼吸を使った、エラー直後の4ステップ
エラーをした直後の打球がまた自分のところに飛んできて、もう一度ミスをしてしまう。野球をしていると、ミスがミスを呼ぶ場面をよく見かけます。
技術の問題に見えて、実はミスのあとの「切り替え」がうまくいっていないことが原因になっている場合が少なくありません。この記事では、スポーツ心理学で使われるセルフトークと、リセットのための動作を紹介します。
筆者の経験
私は高校まで投手をしていました。マウンドでストライクが先行しないと、ベンチから監督の怒号が飛んでくる。そのたびに悔しさと反発心で頭がいっぱいになり、腕に余計な力が入って、四球を出したり、甘い球を投げて打たれたりしていました。
今ふり返ると、あのとき私の意識は「次の1球」ではなく、「怒られたこと」に向いていました。この記事で紹介する切り替え方を当時知っていたら、と思います。
なぜミスを引きずってしまうのか
ミスをすると、頭の中で「なんで捕れなかったんだ」「監督に怒られる」と、終わったプレーや、まだ起きていない未来のことを考え始めます。
すると、目の前のプレーに使うはずの注意が奪われ、次のプレーへの準備が遅れます。さらに体に余計な力が入り、動きが硬くなる。こうして、ミスが次のミスを呼ぶ流れができてしまいます。
切り替えとは、意識を「過去」や「未来」から「今のプレー」に戻すことです。
方法1:セルフトーク(自分への声かけ)
セルフトークとは
セルフトークとは、自分に向けて心の中で、または声に出して話しかける言葉のことです。複数の研究をまとめた分析では、セルフトークがスポーツのパフォーマンス向上に役立つことが示されています。
2種類のセルフトーク
| 種類 | ねらい | 例 |
|---|---|---|
| 指示的セルフトーク | やることに注意を向ける | 「足を止める」「低く構える」 |
| 動機づけ的セルフトーク | 気持ちを立て直す | 「次、次!」「よし、来い」 |
ミスの直後は、まず動機づけ的な言葉で気持ちを切り替え、次のプレーの前に指示的な言葉で「やること」を確認する、という順番がおすすめです。
言葉選びのコツ
- 短くする:2〜5文字程度。長い言葉は試合中に使えません
- 否定形を避ける:「エラーするな」より「正面に入る」
- 自分で決める:人から与えられた言葉より、自分で選んだ言葉の方がしっくりきます
方法2:リセット動作をつくる
体の動きで気持ちを区切る
言葉だけで切り替えるのが難しいときは、決まった動作を「リセットのスイッチ」にする方法があります。
例えば、
- グラブを一度強く叩く
- 帽子をとって、かぶり直す
- 足元の土をならす
などです。大切なのは、この動作をしたら過去のプレーは終わり、と自分の中で決めておくことです。
呼吸と組み合わせる
リセット動作に、ゆっくり長く吐く呼吸を1回組み合わせると、体の力みも一緒に抜きやすくなります。呼吸のやり方は試合で緊張しすぎる時の対処法で詳しく紹介しています。
あわせて読みたい野球の目標設定のやり方|「甲子園に行く」だけでは伸びない理由と3種類の目標野球で上達する選手は、目標の立て方が違います。結果目標・パフォーマンス目標・プロセス目標の3種類と、目標設定シートの書き方を、スポーツ心理学の研究をもとに解説します。切り替えの流れ(守備の例)
エラーした直後の4ステップ
- 受け止める:「今のはミス」と一度だけ認める(言い訳や自分責めはしない)
- リセット動作:グラブを叩く+長く吐く呼吸
- 動機づけの言葉:「次!」
- やることの確認:「正面、足を止める」と指示的セルフトークで次の打球に備える
この流れも、試合だけで使おうとしてもうまくいきません。ノックでミスをしたときから毎回やることで、試合でも自然に出るようになります。
指導者・保護者の方へ
選手がミスをした直後に強く叱ると、選手の意識はさらに「過去のミス」と「怒られる未来」に向いてしまいます。冒頭で書いた私の経験のように、怒号が力みを生み、次のミスにつながることもあります。ミスの直後はまず「次!」と切り替えを促し、修正点はイニングの合間や試合後に伝える方が、次のプレーにつながりやすくなります。
まとめ
- ミスを引きずるのは、意識が「過去」や「未来」に向いているから
- セルフトークは、短く・肯定形で・自分で決める
- リセット動作と呼吸で、体ごと気持ちを区切る
- 切り替えの流れは、練習のときから毎回くり返す
参考文献
- Hatzigeorgiadis, A., Zourbanos, N., Galanis, E., & Theodorakis, Y. (2011). Self-talk and sports performance: A meta-analysis. Perspectives on Psychological Science, 6(4), 348–356.
- Theodorakis, Y., Weinberg, R., Natsis, P., Douma, I., & Kazakas, P. (2000). The effects of motivational versus instructional self-talk on improving motor performance. The Sport Psychologist, 14(3), 253–271.