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本拠地で戦うと有利なのか|ホームアドバンテージの研究をCS前に読む

公開 約11分で読めます文:SEYWO

クライマックスシリーズの日程発表を入り口に、本拠地で戦うチームはどれくらい勝ちやすいのかを、約60%という勝率を示したメタ分析で解説。野球で利点が小さい理由と、大一番で利点が逆転するという説も紹介します。

3行でわかる

  • CSは上位チームの本拠地で全試合が行われる。では本拠地で戦うことはどれくらい有利なのか
  • スポーツの勝敗データをまとめたメタ分析では、ホームチームの勝つ確率は全体で約60%だった
  • 利点の大きさは競技やシーズンの長さで変わる。本拠地は「勝ちが決まる場所」ではない

「本拠地だから有利」「アウェーで勝つのは難しい」。短期決戦の前になると、よく聞く言葉です。

では、本拠地で戦うチームは、実際にどれくらい勝ちやすいのでしょうか。そして、その有利さは選手の心理と関係しているのでしょうか。この記事では、スポーツの勝敗データをまとめた研究を中心に、この2つの問いを考えます。

今日の話題:CSは全試合が上位チームの本拠地で

10月6日、NPBは2026年のクライマックスシリーズ(CS)の日程を発表しました。ファーストステージはセ・パともに10月10日から3試合制で行われます。セはリーグ2位の巨人と3位のDeNA、パは2位の西武と3位の日本ハムが対戦します。

ファイナルステージは10月14日からです。セは1位の阪神が6試合制、パは1位のソフトバンクが7試合制で、ファーストステージの勝者を迎えます。

日程表を見ると、各ステージの試合はすべて上位チームの本拠地で組まれています。セのファイナルステージは甲子園、パのファイナルステージはみずほPayPayドームです。

この記事は、どのチームが勝つかを予想するものではありません。「本拠地で戦う」という条件が勝敗とどう関係するのかを、研究にもとづいて考えます。

論文を読む:本拠地のチームは何%勝つのか

今日の論文

The Home Field Advantage in Athletics: A Meta-Analysis

Jamieson, J. P. (2010). Journal of Applied Social Psychology, 40(7), 1819–1848.
https://doi.org/10.1111/j.1559-1816.2010.00641.x

  • 問い スポーツの試合で、本拠地のチームが勝つ確率はどれくらいか。その大きさは、どんな条件で変わるのか。
  • 方法 勝ち負けのデータを含む過去の研究を集め、結果を統計的にまとめました(メタ分析)。時代、シーズンの長さ、試合の種類、競技の違いによって、本拠地の有利さが変わるかを調べています。
  • 結果 すべての条件で、本拠地のチームの有利さが確認されました。全体では、本拠地のチームが勝つ確率は約0.604(約60%)と報告されています。有利さの大きさは、時代、シーズンの長さ、試合の種類、競技によって異なりました。さらに、競技による違いは、シーズンの長さの違いで説明できるという結果でした。

要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。

用語を整理する

この研究を読むために、3つの言葉を整理します。

用語 定義 野球での例
ホームアドバンテージ 本拠地で試合をするチームが、相手より多く勝つ傾向 甲子園での阪神、みずほPayPayドームでのソフトバンク
メタ分析 同じテーマの複数の研究の結果を集め、全体としての大きさを計算する方法 1つの球場や1シーズンではなく、多くのデータをまとめて「本拠地の勝率」を出す
調整要因(モデレーター) 効果の大きさを強めたり弱めたりする条件 シーズンの長さ、試合の種類、競技の違い

「約60%」をどう読むか

本拠地とビジターで同じ強さなら、勝つ確率は50%です。約60%という数字は、10試合あたり1試合ほど、本拠地のチームの勝ちが多いという意味になります。

ただし、この数字は多くの競技をまとめた全体の値です。この研究では、有利さの大きさが競技によって違いました。そして、その違いはシーズンの長さで説明できたと報告されています。

  1. 本拠地で戦う全体では勝つ確率が約60%
  2. 競技やシーズンの長さ有利さの大きさが変わる
  3. 個々の試合の勝敗本拠地だけでは決まらない

野球の数値は、この記事では書きません。要旨で確認できたのは全体の値だけだからです。

なぜ本拠地は有利なのか:心理の役割

本拠地の有利さが「なぜ」起こるのかについては、別の研究が整理しています。クールニヤとキャロンは1992年の論文で、本拠地の有利さに関する研究を見直しました。

あわせて読む論文

The Home Advantage In Sport Competitions: A Literature Review

Courneya, K. S., & Carron, A. V. (1992). Journal of Sport and Exercise Psychology, 14(1), 13–27.
https://doi.org/10.1123/jsep.14.1.13

  • 問い 本拠地の有利さについての研究を、どう整理し、次に何を調べるべきか。
  • 方法 試合の場所に関する過去の研究を、1つの枠組みで整理しました(文献レビュー)。
  • 結果 本拠地が有利であること自体は十分に記録されていると結論づけました。一方で、なぜ有利になるのかという仕組みは、ほとんど調べられていないと指摘しています。

要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。

このレビューは、本拠地の有利さを段階に分けて考える枠組みを示しました。試合の場所に伴う条件(観客、移動、球場への慣れ、ルール)が、選手や指導者の心理に影響し、それが行動とプレーの結果につながる、という考え方です。

この枠組みのポイントは、「本拠地だから勝つ」のではなく、途中に心理や行動の段階があると考えることです。たとえば、観客の声援が選手の自信を高めるのか、それとも重圧を強めるのかは、この途中の段階で決まります。

野球に置き換えると

ここからは、研究の結果と枠組みを、CSの場面に当てはめて考えます。

野球に置き換えると

ファイナルステージ初戦、本拠地チームの先発投手 1位チームは、シーズン中に何十試合も投げてきたマウンドに立ちます。枠組みでいう「球場への慣れ」に当てはまる場面です。マウンドの傾斜や風の向きを知っていることは、本拠地の有利さの候補の1つです。

ファーストステージ、ビジターチームの1番打者 移動や慣れない球場は、枠組みでいう「移動」と「慣れ」の条件に当てはまります。ただし、CSの対戦相手は同じリーグのチームです。シーズン中に同じ球場で何度も試合をしているため、慣れの差は大きくないと考えられます(筆者の見解)。

当てはまらない例:本拠地の後攻だから有利、という考え 野球では、本拠地のチームが後攻になります。クールニヤとキャロンは1990年に、先攻と後攻の違いが本拠地の有利さに関係するかを調べた論文も発表しています。今回の記事では、その内容を確認できていないため、後攻の有利さについては扱いません。

大一番では本拠地が不利になる、という説

短期決戦を考えるうえで、知っておきたい研究がもう1つあります。バウマイスターとスタインヒルバーは1984年に、「優勝がかかる試合では、本拠地のチームがかえって不利になる」という説を発表しました。論文のタイトルは「支援的な観客の逆説的な効果」です。

あわせて読む論文

Paradoxical effects of supportive audiences on performance under pressure: The home field disadvantage in sports championships.

Baumeister, R. F., & Steinhilber, A. (1984). Journal of Personality and Social Psychology, 47(1), 85–93.
https://doi.org/10.1037/0022-3514.47.1.85

  • 問い 優勝がかかる大事な試合で、地元の観客の応援は、本拠地のチームに有利に働くのか。
  • 方法 プロスポーツの優勝決定シリーズの記録を分析しました。
  • 結果 タイトルのとおり、優勝がかかる試合では本拠地が不利になる(home field disadvantage)という結論を示しました。

要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。

この説の考え方はこうです。地元の観客の前で優勝を決めたいという思いが強いと、選手は自分の動きを意識しすぎます。その結果、ふだん自動的にできている動作がうまくいかなくなる、というものです。

ただし、この説には反論も出ています。バウマイスター自身が1995年に「優勝の重圧と地元の観客の効果をめぐる論争」についての論文を発表しており、結論は研究者の間で一致していません。

今日からできること

ここで紹介した研究は、本拠地の勝率と、その仕組みの整理を扱ったものです。「どうすればアウェーで勝てるか」を確かめた研究ではありません。以下は、研究の結果と枠組みから考えられる提案です。

選手向け

  • 「アウェーだから不利だ」と考えすぎない。全体の勝率は約60%で、本拠地のチームも10試合のうち4試合ほどは負けている
  • ビジターの球場では、試合前の練習でマウンドの傾斜・外野の風・打球の跳ね方を1つずつ確かめる。枠組みでいう「慣れ」の差を自分で小さくするためです
  • 本拠地の大一番では、「地元で決めたい」という結果ではなく、「低めに投げ切る」など次の1球の行動に注意を向ける。緊張との付き合い方は次の記事も参考にしてください
あわせて読みたい野球の試合で緊張しすぎる時の対処法|スポーツ心理学でわかる「ちょうどいい緊張」のつくり方試合になると手が震える、普段どおり投げられない。そんな「あがり」に悩む野球選手に向けて、緊張のしくみと、呼吸・ルーティン・考え方の3つの対処法をスポーツ心理学の研究からわかりやすく解説します。

指導者向け

  • ビジターの試合前は、移動の時間や食事、到着後の練習の流れを、ふだんの練習日と同じ順番にそろえる
  • 本拠地の大一番の前には、「お客さんのために勝とう」より、「初回の先頭打者を抑える」など具体的な目標を伝える

研究からわかること・わからないこと

  • 約60%は多くの競技をまとめた値:野球だけの値は、要旨から確認できませんでした。競技やシーズンの長さで、有利さの大きさは変わると報告されています。
  • 「試合の種類」の影響の向き:メタ分析では試合の種類によって有利さが変わったとされていますが、短期決戦で有利さが大きくなるのか小さくなるのかは、要旨からは確認できませんでした。
  • 心理の仕組みは未解明:クールニヤとキャロンが指摘したように、本拠地の有利さが「なぜ」起こるのかは、十分に確かめられていません。
  • 大一番の不利説は議論が続いている:優勝がかかる試合で本拠地が不利になるという説には、反論も出ています。
  • 話題との関係:CSの結果を、本拠地の有利さで予想・説明するものではありません。

まとめ

  • 本拠地のチームが勝つ確率は、多くのスポーツをまとめると約60%と報告されている
  • 有利さの大きさは競技やシーズンの長さで変わり、本拠地だけで勝敗は決まらない
  • 本拠地の有利さは、観客・移動・慣れなどの条件が、心理と行動を通じてプレーに表れるものと整理されている
  • 優勝がかかる試合では本拠地が不利になるという説もあり、結論は出ていない

本拠地は「勝てる場所」ではなく、「少しだけ条件がそろった場所」です。ビジターでは慣れの差を準備で縮め、本拠地では結果より次の1球の行動に集中することが、研究から考えられる向き合い方です。

参考文献

  • Jamieson, J. P. (2010). The Home Field Advantage in Athletics: A Meta-Analysis. Journal of Applied Social Psychology, 40(7), 1819–1848. https://doi.org/10.1111/j.1559-1816.2010.00641.x
  • Courneya, K. S., & Carron, A. V. (1992). The Home Advantage In Sport Competitions: A Literature Review. Journal of Sport and Exercise Psychology, 14(1), 13–27. https://doi.org/10.1123/jsep.14.1.13
  • Baumeister, R. F., & Steinhilber, A. (1984). Paradoxical effects of supportive audiences on performance under pressure: The home field disadvantage in sports championships. Journal of Personality and Social Psychology, 47(1), 85–93. https://doi.org/10.1037/0022-3514.47.1.85
  • Courneya, K. S., & Carron, A. V. (1990). Batting First Versus Last: Implications for the Home Advantage. Journal of Sport and Exercise Psychology, 12(3), 312–316. https://doi.org/10.1123/jsep.12.3.312
  • Baumeister, R. F. (1995). Disputing the effects of championship pressures and home audiences. Journal of Personality and Social Psychology, 68(4), 644–648. https://doi.org/10.1037/0022-3514.68.4.644