中学、高校、大学、社会人、独立リーグ、NPB、MLBで伸びた7チームの取り組みを、報道記事をもとに比べます。共通点は「制約を、絞り込みに変える」こと。費用ゼロで真似できる方法と、比べるうえでの留意点もまとめました。
この記事でわかること
- 7チームとも、時間・お金・選手の力といった制約を「やることを絞る」理由に変えている
- 共通点は「やらないことを決める」「成長を段階に分ける」「伸びを目に見える形にする」の3つ
- まず真似しやすいのは「やめることを1つ」「強みを1つ」決めること
練習時間は長いのに、なかなかうまくならない。逆に、練習時間が短いのに伸びていくチームもあります。その差はどこから生まれるのでしょうか。
この記事では、伸びるチームには、カテゴリーをこえて共通する練習の考え方があるのかという問いを立てます。中学からMLBまで7つのチームを、報道記事で確認できた事実をもとに比べました。
この記事で使った出典(記事の日付)
- 野球嫌いの子供をこれ以上増やしたくない…大阪の名門チームが決別した「少年野球の3つの常識」とは(PRESIDENT Online, 2023年2月3日)
- 「丸刈りはEnjoy Baseballじゃない」センバツ出場"元祖フツー髪"慶應はグラウンド入退場時の"一礼"なしでいい(PRESIDENT Online, 2023年8月16日/初出2023年3月21日)
- 東京大学野球部 データで支える学生アナリスト「弱者の兵法」で勝利に導く(テレビ東京スポーツ, 2021年10月22日)
- 阪神ドラ5谷川昌希はタフな成長株。先輩・ロッテ有吉優樹からのエール。(Number Web, 2017年11月26日)
- 「独立リーグの虎の穴」徳島インディゴソックスには今年も12人のドラフト候補がいる(webSportiva, 2024年7月18日)
- 「プロ野球の三軍とは何なのか?」球界で一番詳しい大道コーチに聞く(webSportiva, 2018年2月3日)
- Guardians pushing development pedal to the floor for '25 and beyond(MLB.com, 2025年3月21日)
先に読んでほしい留意点
- 各チームの取り組みは、上の記事が書かれた時点のものです。古いものは2017年の記事で、今の取り組みとは違う可能性があります。
- 書いたのは、記事で確認できた事実だけです。チームの内部をすべて知っているわけではありません。
- チームが伸びた原因は、練習方法だけとは限りません。スカウト、選手の素質、指導者、環境なども関係します。
- 比べた結果の「共通点」は、研究で確かめたものではなく筆者の見解です。
7チームの取り組みを比べる
まず、7チームの「制約」と「工夫」を一覧にします。制約とは、チームが自由にできない条件のことです。制約の欄は筆者が整理したもので、工夫の欄は記事で確認できた内容です。
| チーム | 主な制約(筆者の整理) | 記事で確認できた工夫 |
|---|---|---|
| 中学 堺ビッグボーイズ(大阪) |
体が成長途中で、故障のおそれがある | 勝つことより「野球を好きになってもらう」ことを目標にする。羽根の付いたヤリ状の道具(フレーチャ)で投げ方を練習する |
| 高校 慶應義塾高校 |
練習が精神論に流れやすい | 声を「準備」「瞬時の判断」「評価」の3種類に絞る。練習の意味を問い直す |
| 大学 東京大学 |
選手の力で相手に劣る | 学生アナリストが計測データを分析する。強みを走塁に絞る |
| 社会人 九州三菱自動車 |
仕事が優先される | 練習は午前9時からで、午前中に切り上げるのが基本 |
| 独立リーグ 徳島インディゴソックス |
お金と時間が少ない | 「スカウティング」と「育成」が柱。社長がNPBのスカウトに選手を売り込む |
| NPB 福岡ソフトバンクホークス |
支配下選手の枠に限りがある | 三軍制を敷き、育成契約の選手を三軍から育てる |
| MLB クリーブランド・ガーディアンズ |
予算が限られる | 獲った選手を自前で育てることを基本にする。契約直後から時期ごとに準備の段階を決める |
以下、チームごとに記事の内容を短くまとめます。
中学:堺ビッグボーイズ
PRESIDENT Online(2023年2月3日)によると、このチームは試合に勝つことより、野球を好きになってもらうことを目標にしています。トレーニングアドバイザーの指導を受け、フレーチャという道具で投げ方を練習しています。記事では、球速が上がりながら、肩やひじの故障が大きく減っていると書かれています。
高校:慶應義塾高校
PRESIDENT Online(2023年8月16日)によると、練習中は「さあ、行こうぜ」のような声出しをしません。必要な声は、準備の声、瞬時の判断の声、評価の声の3種類に限っています。グラウンドに出入りするときの一礼も、各自の判断に任せています。
大学:東京大学
テレビ東京スポーツ(2021年10月22日)によると、学生アナリストがトラックマンやラプソードのデータを分析しています。トラックマンとラプソードは、投球の回転数や打球の速さを測る機器です。チームは走塁を一番の強みに絞りました。前の年の春はゼロだった盗塁を、リーグトップの24個まで増やしたと報じられています。64まで続いた連敗も止め、記事の時点で2021年に2勝をあげていました。
社会人:九州三菱自動車
Number Web(2017年11月26日)によると、多くの社会人チームは午前が仕事、午後が練習です。九州三菱自動車は逆で、練習は午前9時から始まり、午前中に切り上げるのが基本です。練習中でも顧客から連絡が入れば、スーツに着替えて仕事に戻るそうです。この環境から、NPBに進んだ選手(谷川昌希投手、有吉優樹投手)がいると紹介されています。
独立リーグ:徳島インディゴソックス
webSportiva(2024年7月18日)によると、徳島は育成ドラフトを含めて11年連続でドラフト指名を受けていました。記事のキーワードは「スカウティング」と「育成」です。オーナーが自ら選手の情報を集め、社長がNPBのスカウトに選手を売り込んでいます。
NPB:福岡ソフトバンクホークス
webSportiva(2018年2月3日)によると、ソフトバンクは三軍制を敷いています。千賀滉大投手と甲斐拓也捕手は、育成契約で入団して三軍から始まり、チームの主力に成長しました。記事は、三軍制をソフトバンクの強さの要因の一つとしています。
MLB:クリーブランド・ガーディアンズ
MLB.com(2025年3月21日)によると、ガーディアンズは獲得した選手を自前で育てることを基本の戦略にしています。高校から入った投手は、契約直後にアリゾナで体の手入れ、栄養、トレーニングを学びます。11月には、オフにやることを伝える面談があります。1月には、キャンプが始まる3〜4週間前から準備に入ります。
共通点:制約を「絞り込み」に変えている
7チームはカテゴリーも予算も違います。それでも、次の流れが共通していると筆者は考えます(筆者の見解)。
- 制約を認める時間がない・お金がない・選手の力が劣る
- やることを絞る声を3種類に/走塁に一点集中/練習は午前中だけ
- 仕組みにして続ける段階を作る・測る・外に見せる
2番目の「絞る」には、具体的に3つの形がありました。
| 共通点 | 意味 | 当てはまるチーム |
|---|---|---|
| やらないことを決める | 効果がはっきりしない習慣をやめる | 慶應義塾高校(声出し)、堺ビッグボーイズ(勝利が最優先という考え方)、東京大学(走塁以外で勝負しない) |
| 成長を段階に分ける | 今どの段階にいて、次に何をするかを決める | ソフトバンク(三軍→一軍)、ガーディアンズ(契約直後→11月→1月) |
| 伸びを目に見える形にする | 数値や評価で、成長を本人と周りに示す | 東京大学(計測データ)、徳島インディゴソックス(スカウトへの売り込み) |
野球に置き換えると
自分のチームに置き換えると
- 中学の部活で、平日の練習が90分しかない場合:九州三菱自動車のように、時間が短いことを前提に練習を組みます。たとえば最初の10分で「今日の課題」を一人1つ決め、残りの時間をその課題に使います。
- 高校で、守備練習中の声が多いのにミスが減らない場合:慶應義塾高校の考え方を当てはめます。「走者一塁、ゲッツー」のような準備の声は残し、「元気出していこう」のような声は減らします。
- 選手の力で相手に劣る大学・高校の場合:東京大学のように、勝負する分野を一つに絞ります。足の速い選手が多いなら、盗塁と次の塁を狙う走塁の練習に時間を多く配分します。
今日からできること
選手向け
- 練習の最初に「今日の課題」を1つだけ書き、最後に「できた・できなかった」を一言で振り返る。
- 自分の強みを1つ決め、それを伸ばす練習を毎日少しずつ入れる。
- スマホで自分のフォームを撮り、撮った直後に確認する。
指導者向け
- チームの「やめることリスト」を1つ作る(例:意味のない声出し、全員一律のランニング)。
- 選手ごとに「基礎→実戦→主力」のどの段階にいるかを決め、本人と共有する。
- 試合がない時期の準備を「いつ・何をするか」で決めておく。
比べるうえでの留意点
- 記事の日付がばらばら:出典は2017年から2025年の記事です。古い記事の取り組みが、今も同じとは限りません。
- 記事に書かれた範囲しかわからない:この記事は、報道で確認できた事実だけで比べています。書かれていない工夫や、反対の面があるかもしれません。
- 原因を一つに決められない:チームが伸びた理由は練習方法だけではありません。選手の素質、スカウト、施設、指導者の数なども関わります。
- 共通点は筆者の見解:「制約を絞り込みに変える」という整理は、研究で確かめたものではありません。
- カテゴリーで条件が違う:中学生とプロでは、体の発達も使える時間も違います。真似をするときは、自分のチームの年齢や環境に合わせて調整してください。
まとめ
伸びるチームは、カテゴリーが違っても「制約を、やることを絞る理由に変えている」という点で共通していました(筆者の見解)。
その絞り方は、やらないことを決める、成長を段階に分ける、伸びを目に見える形にする、の3つです。
設備がなくても、「やめることを1つ」「強みを1つ」決めることは今日から始められます。
参考にした記事
- 広尾晃 (2023年2月3日). 野球嫌いの子供をこれ以上増やしたくない…大阪の名門チームが決別した「少年野球の3つの常識」とは. PRESIDENT Online. 記事を開く
- 清水岳志 (2023年8月16日). 「丸刈りはEnjoy Baseballじゃない」センバツ出場"元祖フツー髪"慶應はグラウンド入退場時の"一礼"なしでいい. PRESIDENT Online. 記事を開く
- テレビ東京スポーツ (2021年10月22日). 東京大学野球部 データで支える学生アナリスト「弱者の兵法」で勝利に導く. 記事を開く
- 永田遼太郎 (2017年11月26日). 阪神ドラ5谷川昌希はタフな成長株。先輩・ロッテ有吉優樹からのエール。 Number Web. 記事を開く
- 菊地高弘 (2024年7月18日). 「独立リーグの虎の穴」徳島インディゴソックスには今年も12人のドラフト候補がいる. webSportiva. 記事を開く
- 寺崎江月 (2018年2月3日). 「プロ野球の三軍とは何なのか?」球界で一番詳しい大道コーチに聞く. webSportiva. 記事を開く
- Mayo, J. (2025, March 21). Guardians pushing development pedal to the floor for '25 and beyond. MLB.com. 記事を開く