研究×野球

結果を待つ時間はなぜつらいのか|ドラフト会議前に読む「待つ心理」の研究

公開 約8分で読めます文:SEYWO

10月22日のドラフト会議を入り口に、結果を待つ時間と悪い結果を知った後では、どちらがつらいのかを比べた研究を解説。待つ間は不安が強く、知った後は落胆や後悔が強いという違いと、待つ時間との向き合い方を考えます。

3行でわかる

  • ドラフト会議は10月22日。指名を待つ時間は、選手にとって自分では動かせない時間になる
  • 研究では、結果を待つ間は不安が強く、悪い結果を知った後は落胆や後悔などが強いと報告された
  • 「待つ時間」と「知った後」は別のつらさ。待つ間は、自分で決められる行動に時間を使う

指名されるのか、されないのか。ベンチ入りできるのか、できないのか。野球をしていると、自分では決められない結果を待つ時間が何度もあります。

では、結果を待つ時間と、悪い結果を知った後の時間では、どちらがつらいのでしょうか。そして、つらさの「中身」は同じなのでしょうか。この記事では、この2つの問いに、待つ時間の感情を調べた研究で答えます。

今日の話題:ドラフト会議は10月22日

NPBは9月30日、2026年のドラフト会議(新人選手選択会議)の開催要項を発表しました。会議は10月22日(木)の16時50分から、東京都内のホテルで行われる予定です。

テレビやインターネットでの中継も予定されています。プロ志望届を出した選手たちは、この日まで、指名されるかどうかがわからない時間を過ごすことになります。

指名するのは球団です。選手本人は、当日の結果を自分の力で変えることができません。この記事では、特定の選手の気持ちを推測するのではなく、「自分では決められない結果を待つ時間」を一般論として考えます。

論文を読む:待つ時間は「いちばんつらい」のか

今日の論文

Is Waiting the Hardest Part? Comparing the Emotional Experiences of Awaiting and Receiving Bad News

Sweeny, K., & Falkenstein, A. (2015). Personality and Social Psychology Bulletin, 41(11), 1551–1559.
https://doi.org/10.1177/0146167215601407

  • 問い 不確かな結果を待つことは、悪い結果を受け取ることよりもつらいのか。
  • 方法 2つの研究で比べました。研究1では、参加者に「待った結果が悪かった」自分の経験を振り返ってもらいました。研究2では、司法試験の結果を待ち、最終的に不合格だった法科大学院の修了者を対象にしました。
  • 結果 研究1では、待つ時間と悪い結果を受け取る時間のどちらがつらいかについて、参加者の答えは一方に偏りませんでした。感情の評定では、不安は結果を知る前(少なくとも結果がわかる瞬間)のほうが高く、怒り・失望・落ち込み・後悔などは結果を知った後のほうが強かったと報告されています。

要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。

用語を整理する

この研究を読むために、3つの言葉を整理します。

用語 定義 野球での例
待機期間 自分にとって大事な結果が決まる、またはわかるまでの、結果が不確かな期間 ドラフト会議までの数週間、ベンチ入りメンバー発表までの数日
不安 これから起こるかもしれない悪い結果に向けられる、落ち着かない感情 「名前が呼ばれなかったらどうしよう」と考え続ける状態
その他の否定的な感情 怒り、失望、落ち込み、後悔など。この研究では不安と分けて測られた 発表を聞いた後の「あの試合で打っていれば」という後悔

結果をどう読むか

この研究の答えは、「待つ時間のほうがつらい」でも「知った後のほうがつらい」でもありません。つらさの種類が違うというものです。

  1. 結果を待つ間不安が強い(とくに結果がわかる瞬間)
  2. 悪い結果を知った後不安より、怒り・失望・後悔などが強い
  3. どちらがつらいか人によって答えが分かれる

著者たちは、「待つことがいちばんつらいかどうか」は、その人が不安に苦しむことと、失望や後悔に苦しむことの、どちらをより避けたいかによる、とまとめています。

ここで大切なのは、研究2の対象が最終的に不合格だった人だという点です。つまり、この研究は「悪い結果だった場合」の待つ時間と知った後の時間を比べています。良い結果だった人の感情の変化は、要旨からは確認できませんでした。

なぜ司法試験の研究が野球に関係するのか

司法試験とドラフト会議は、まったく違う場面に見えます。しかし、次の3つの点が共通しています。

  • 本人にとって、将来の進路を大きく左右する結果である
  • 結果が出る日が、前もって決まっている
  • 結果を待つ間に、本人ができることがほとんどない

一方で、違う点もあります。司法試験は、受験した時点で結果がすでに決まっています。ドラフト会議は、会議の当日に球団が決めます。どちらも「本人の手を離れている」点は同じですが、結果が決まるタイミングは異なります(筆者の見解)。

野球に置き換えると

研究の「待機期間」は、自分では決められない結果が出るまでの期間です。どの場面が当てはまり、どの場面が当てはまらないかを整理します。

野球に置き換えると

当てはまる例1:ドラフト会議当日、中継を見ている指名候補の選手 会議が始まると、各球団の指名が順に読み上げられます。研究で不安が高かったとされる「結果がわかる瞬間」に近い場面です。

当てはまる例2:秋の大会前、ベンチ入りメンバーの発表を待つ控えの外野手 練習ではできることをやり終え、あとは監督の発表を待つだけです。結果の日が決まっていて、本人が結果を変えられない点で、研究の待機期間に当てはまります。

当てはまらない例:ネクストバッターズサークルで打席を待つ5番打者 同じ「待つ」でも、この場面では、次の打席の結果を自分のスイングで変えられます。研究が扱ったのは、本人が結果を変えられない待機期間です。そのため、この場面にはそのまま当てはまりません。

今日からできること

この研究は、待つ時間と知った後の感情を比べたものです。「どうすれば待つ時間を楽に過ごせるか」を確かめた研究ではありません。以下は、研究の結果から考えられる提案です(筆者の見解)。

選手向け

  • 待つ間に不安が強くなるのは、研究で報告された一般的な反応だと知っておく。不安を感じること自体を「自分が弱いから」と考えなくてよい
  • 結果は変えられなくても、今日の練習の中身は自分で決められる。「ティー打撃を100球、低めを意識して打つ」のように、その日の行動を1つ決めて書き出す
  • 結果を知った後に失望や後悔が来ることも、前もって知っておく。結果の後にどう過ごすかを、待つ間に1つ決めておく(例:翌日は誰と話すか)
  • 次の目標の立て方は、次の記事も参考にしてください
あわせて読みたい野球の目標設定のやり方|「甲子園に行く」だけでは伸びない理由と3種類の目標野球で上達する選手は、目標の立て方が違います。結果目標・パフォーマンス目標・プロセス目標の3種類と、目標設定シートの書き方を、スポーツ心理学の研究をもとに解説します。

指導者・周りの人向け

  • 発表の前は「不安」、発表の後は「失望や後悔」と、つらさの種類が変わることを意識して声をかける
  • 発表の日時をあいまいにせず、前もって伝える。研究の対象はどれも結果の日が決まっている場面だったため、日時が決まっていない場合のことは、この研究からはわかりません
  • 悪い結果だった選手には、すぐに次の目標を求めず、まず話を聞く時間をとる

研究からわかること・わからないこと

  • わかること:悪い結果だった場合、不安は結果を知る前に高く、怒り・失望・後悔などは知った後に強かった。待つ時間と知った後のどちらがつらいかは、人によって答えが分かれた。
  • 対象の違い:研究の対象は司法試験の受験者と、自分の経験を振り返った参加者です。スポーツ選手を対象にした研究ではありません。
  • 良い結果の場合:研究2は不合格だった人が対象です。指名された選手のように、良い結果だった人の感情は、この研究からはわかりません。
  • 対処法の効果:待つ時間の過ごし方によって不安が減るかどうかは、この研究では調べていません。著者のスウィーニーは、待つ時間の過ごし方についての論文(Sweeny, 2012)も発表していますが、今回は内容を確認できていないため扱いません。
  • 話題との関係:ドラフト会議の候補選手が、実際にどう感じているかを示すものではありません。

まとめ

結果を待つ時間と、悪い結果を知った後の時間。研究によれば、どちらがつらいかの答えは人によって分かれました。

違ったのは、つらさの中身です。待つ間は不安が強く、知った後は失望や後悔などが強いと報告されています。

待つ間の不安は、多くの人に起こる反応です。結果は変えられなくても、今日の行動は自分で決められます。待つ時間は、その行動に使うことが、研究から考えられる向き合い方です(筆者の見解)。

参考文献

  • Sweeny, K., & Falkenstein, A. (2015). Is Waiting the Hardest Part? Comparing the Emotional Experiences of Awaiting and Receiving Bad News. Personality and Social Psychology Bulletin, 41(11), 1551–1559. https://doi.org/10.1177/0146167215601407
  • Sweeny, K. (2012). Waiting Well: Tips for Navigating Painful Uncertainty. Social and Personality Psychology Compass, 6(3), 258–269. https://doi.org/10.1111/j.1751-9004.2011.00423.x