阪神の球団初のリーグ連覇とCSを入り口に、「ここまでやったこと」と「まだ残っていること」のどちらに目を向けるとやる気が高まるかを調べた研究を解説。目標への本気度によって答えが逆になるという結果を、野球の場面で考えます。
3行でわかる
- 阪神が球団初のリーグ連覇。10月14日からはCSファイナルステージが始まる
- 研究では、目標への本気度が固まっていれば「残り」、迷いがあれば「やったこと」に目を向けるとやる気が高まった
- 振り返りの前に、今の目標への本気度を確かめ、見る情報を選ぶ
大きな目標を一つ達成した後、次の目標に向けてどう気持ちを切り替えればよいのでしょうか。「ここまでよくやった」と振り返るべきか、「まだ終わっていない」と前を見るべきか。指導者も選手も迷うところです。
この記事が答える問いは2つです。目標に向かう途中で、「やったこと」と「残っていること」のどちらに目を向けると、やる気が高まるのか。その答えは、どんな条件で変わるのか。目標の進み具合とやる気の関係を調べた研究で考えます。
話題の出典
今日の話題:阪神が球団初のリーグ連覇
阪神タイガースは10月3日、セ・リーグ優勝を決めました。この日の阪神は広島に4対6で敗れましたが、2位の巨人も敗れたため、優勝が決まりました。
NPBの発表によると、2年連続8度目のセ・リーグ優勝で、リーグ連覇は球団史上初です。阪神は10月14日から始まるクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージに出場し、日本シリーズ出場を目指します。
リーグ優勝という目標を達成した後も、次の目標が続きます。この記事では、阪神の選手の気持ちを推測するのではありません。「一つの目標を達成した後、次に向けて何に目を向けるか」を一般論として考えます。
論文を読む:「やったこと」と「残り」、どちらがやる気を高めるか
今日の論文
Dynamics of self-regulation: How (un)accomplished goal actions affect motivation.
- 問い 目標に向かう途中で、「これまでに達成したこと」と「まだ達成していないこと」のどちらに注目させると、やる気が高まるのか。
- 方法 4つの研究を行いました。題材は、試験勉強、ぜいたく品と必需品の消費、寄付などです。目標への本気度が固まっている場面と、迷いがある場面とを比べました。
- 結果 本気度に迷いがある場面(重要でない試験の勉強、初めての寄付など)では、「やったこと」を強調するとやる気が高まりました。本気度が固まっている場面(重要な試験の勉強、繰り返しの寄付など)では、「残っていること」を強調するとやる気が高まったと報告されています。
要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。
用語を整理する
この研究を読むために、3つの言葉を整理します。
| 用語 | 定義 | 野球での例 |
|---|---|---|
| 目標への本気度(コミットメント) | その目標を追い続けたいという気持ちが、どれだけ固まっているか | 「日本一になりたい」と全員が言い切れるか、まだ迷いがあるか |
| やったこと(to-date) | 目標に向けて、これまでに達成した行動 | シーズン143試合を戦い終え、リーグ優勝を決めたこと |
| 残っていること(to-go) | 目標に向けて、まだ達成していない行動 | CSファイナルステージと日本シリーズが残っていること |
結果をどう読むか
この研究のポイントは、同じ情報でも、受け取る人の状態によって意味が変わるという点です。著者らの説明を、順に図にします。
- 本気度に迷いがある「この目標を続ける価値があるのか」が気になる
- 「やったこと」を見るここまで続けてきた事実が、本気度の証拠になる
- やる気が高まる「ここまで来たのだから続けよう」
本気度が固まっている場合は、逆になります。続けることにはもう迷いがありません。そのため、関心は「どれだけ進んだか」に移ります。このとき「残っていること」を見ると、まだ足りない部分がはっきりします。その不足が、やる気を高めると著者らは説明しています。
つまり、「振り返りが大事」「前を向くことが大事」のどちらか一方が正しいわけではありません。どちらの情報が効くかは、本気度が固まっているかどうかで決まるというのが、この研究の答えです。
野球に置き換えると
研究の条件は「目標への本気度が固まっているか」と「どちらの情報に注目するか」の2つです。どの場面が当てはまり、どの場面が当てはまらないかを整理します。
野球に置き換えると
当てはまる例1:秋季大会の初戦を前にした高校2年生のチーム 新チームの全員が「センバツに出たい」と言い切っている状態です。本気度が固まっている場合、研究の結果からは「残り」に注目する方が合います。ミーティングでは「地区大会を突破するまで、あと何勝必要か」を確認します。
当てはまる例2:夏の大会で試合に出られず、秋から続けるか迷っている控え捕手 本気度に迷いがある場面です。研究の結果からは「やったこと」に注目する方が合います。たとえば、春から続けたブルペンでの捕球練習の日数を、本人と一緒に数えます。
当てはまらない例:1点を追う9回裏、2死二塁で打席に入る打者 この場面で必要なのは、目の前の1球に集中することです。研究が扱ったのは、数日から数週間かけて取り組む目標です。1打席の中での注意の向け方には、そのまま当てはまりません。
今日からできること
この研究は、試験勉強や寄付などの場面を調べたものです。野球の選手やチームを対象に確かめた研究ではありません。以下は、研究の結果から考えられる提案です(筆者の見解)。
選手向け
- 次の目標に向かう前に、「この目標を本気で追いたいか」を自分に問い、答えを紙に書く
- 迷いがないなら、ノートに「残っていること」を書き出す。例:「CSまでの5日間で、外角のスライダーを見極める練習をあと3回やる」
- 迷いがあるなら、先に「やったこと」を書き出す。例:「この1年で、朝の素振りを200日続けた」
- 目標の立て方そのものは、次の記事も参考にしてください
指導者向け
- 大会の後のミーティングでは、先に選手の本気度を確かめる。全員の気持ちが同じとは限らない
- 本気度が固まっている選手には、「残っていること」を具体的に示す
- 迷っている選手に「まだ足りない」とだけ伝えると、研究の結果とは逆の働きかけになるおそれがある。まず、その選手が積み重ねてきたことを言葉にして伝える
研究からわかること・わからないこと
- わかること:本気度に迷いがある場面では「やったこと」、本気度が固まっている場面では「残っていること」に注目すると、やる気が高まった。4つの研究で同じ方向の結果が報告されている。
- 対象の違い:題材は試験勉強、消費、寄付などで、スポーツの場面ではありません。チーム全体のやる気を調べた研究でもありません。
- 効果の大きさ:要旨からは、効果の大きさを示す数値を確認できませんでした。そのため、この記事では数値を書いていません。
- 成績との関係:やる気が高まった結果、試合の成績が上がるかどうかは、この研究ではわかりません。
- 話題との関係:阪神の選手が、実際に何に目を向けているかを示すものではありません。CSの結果を予想するものでもありません。
まとめ
一つの目標を達成した後、「やったこと」と「残っていること」のどちらに目を向けるか。研究の答えは、目標への本気度によって変わるというものでした。
本気度に迷いがあれば「やったこと」、固まっていれば「残っていること」に注目すると、やる気が高まったと報告されています。
振り返りの前に、まず今の目標への本気度を確かめる。そのうえで、見る情報を選ぶことが、研究から考えられる切り替え方です(筆者の見解)。
参考文献
- Koo, M., & Fishbach, A. (2008). Dynamics of self-regulation: How (un)accomplished goal actions affect motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 94(2), 183–195. https://doi.org/10.1037/0022-3514.94.2.183