ホワイトソックスが地区シリーズ突破まであと1勝と迫った話題を入り口に、「決めれば勝ち」と「外せば負け」で同じ1本のキックの成功に違いが出るかを調べたPK戦の研究を解説。失敗を避けたい気持ちが準備や視線にどう表れるかを、野球の場面で考えます。
3行でわかる
- ホワイトソックスが地区シリーズで2連勝し、突破まであと1勝。相手のガーディアンズは負けたら敗退
- PK戦の研究では、外せば負けが決まるキックで、GKから目をそらす・準備を急ぐ行動が多く、成績も低かった
- 「負けたら終わり」の場面ほど、いつもの準備の時間と、見る場所を守る
同じ1球、同じ1打席なのに、場面によって急に重く感じることがあります。「打てば勝ち」の打席と「打たれたら負け」のマウンドとでは、同じ技術を使うはずなのに、心の向きが違うように思えます。
この記事が答える問いは2つです。「成功すれば勝ち」と「失敗すれば負け」とでは、同じプレーの結果に違いが出るのか。違いが出るなら、そのとき選手のどんな行動に表れるのか。サッカーのPK戦を分析した研究で考えます。
今日の話題:ホワイトソックスが突破まであと1勝
MLBのア・リーグ地区シリーズで、ホワイトソックスがガーディアンズに2連勝しました。第2戦は敵地で行われ、ホワイトソックスが4対3で逆転勝ちしています。
地区シリーズは5回戦制で、先に3勝したチームが勝ち抜けます。MLB公式日本語サイトによると、第3戦と第4戦はシカゴのレートフィールドで行われます。ホワイトソックスは、あと1勝でリーグ優勝決定シリーズに進みます。
逆に、ガーディアンズはあと1敗で敗退が決まります。同じ記事は、2017年の地区シリーズで、2連敗したヤンキースが3連勝して勝ち抜けた例も紹介しています。
一方は「勝てば突破」、もう一方は「負ければ終わり」です。この記事では、両チームの選手の気持ちを推測しません。「失敗が即座に負けにつながる場面」で何が起こりやすいかを、一般論として考えます。
論文を読む:「決めれば勝ち」と「外せば負け」のキック
今日の論文
Avoidance Motivation and Choking under Pressure in Soccer Penalty Shootouts
- 問い PK戦で、キックの結果が勝敗にどうつながるかによって、選手の行動と成績は変わるのか。
- 方法 ワールドカップ、ヨーロッパ選手権、UEFAチャンピオンズリーグのPK戦36回、359本のキックを映像で分析しました。「決めれば即勝利」のキックと「外せば即敗退」のキックを比べました。
- 結果 「外せば即敗退」のキックでは、GKから目をそらす行動と、準備を急ぐ(間を短くする)行動が多く見られました。成績も「決めれば即勝利」のキックより低かったと報告されています。
要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。
用語を整理する
この研究を読むために、4つの言葉を整理します。
| 用語 | 定義 | 野球での例 |
|---|---|---|
| あがり(チョーキング) | 重圧のかかる場面で、ふだんの力より成績が下がること | ふだんは入るストライクが、大事な場面で入らなくなる |
| プラスの価値のキック | 決めればその場で勝利が決まるキック | 9回裏同点、一死三塁で、ヒットならサヨナラの打席 |
| マイナスの価値のキック | 外せばその場で敗退が決まるキック | 延長10回裏、同点で三塁に走者を置いた投手の1球 |
| 回避動機 | 「うまくやりたい」より「失敗を避けたい」が前に出る気持ち | 「打たれたらどうしよう」と考えながら投げる |
結果をどう読むか
この研究の大事な点は、キックの技術も距離も同じだということです。違うのは、そのキックの結果が「勝ち」につながるか「負け」につながるかだけです。著者らは、結果の違いを次のように説明しています。
- 外せば負けが決まる失敗の結果がはっきり見える
- 失敗を避けたい気持ちが強まるGKから目をそらす・準備を急ぐ
- 成績が下がる決めれば勝ちのキックより成功が少ない
目をそらすことと、準備を急ぐことは、どちらも「いやな状況から早く離れたい」という行動だと著者らは考えています。この2つが、失敗を避けたい気持ちの表れだというわけです。
ただし、この研究は映像の観察です。選手の気持ちを直接たずねたわけではありません。行動の違いから、回避動機があがりを説明する「可能性」を示した研究です。
なお、要旨では成功率などの具体的な数値を確認できませんでした。そのため、この記事では数値を書いていません。
野球に置き換えると
研究の条件は「1回のプレーの結果が、その場で勝ち・負けを決めるか」です。どの場面が当てはまり、どの場面が当てはまらないかを整理します。
野球に置き換えると
当てはまる例1:9回裏同点、二死満塁でマウンドに立つ投手 四球も死球も暴投も、その瞬間に負けが決まります。研究の「外せば即敗退」に近い場面です。研究の結果からは、捕手のミットから目を離す、サインを見てすぐ投げるといった「急ぐ」行動が出やすい場面と考えられます(筆者の見解)。
当てはまる例2:9回裏同点、一死三塁で打席に入る打者 外野フライでもサヨナラ勝ちになります。研究の「決めれば即勝利」に近い場面です。同じ同点の9回裏でも、投手と打者とでは、1球の価値が逆になります。
当てはまらない例:地区シリーズで2連敗したチームの第3戦、1回表の守備 負ければ敗退の試合ですが、1回の1球でその場で負けが決まるわけではありません。研究が扱ったのは、1本のキックで勝敗が決まる場面です。シリーズ全体の「負けたら終わり」に、この結果がそのまま当てはまるとは言えません。
今日からできること
この研究はサッカーのPK戦を調べたものです。野球の選手を対象に確かめた研究ではありません。以下は、研究の結果から考えられる提案です(筆者の見解)。
選手向け
- 投球や打席の前の動作を、ふだんの練習から同じ順番・同じ時間で行う。大事な場面で「急いでいないか」を確かめる基準になる
- 見る場所を一つ決めておく。投手なら捕手のミット、打者なら投手のリリースの位置。失点の場面でも、その場所から目を離さない
- 「打たれたらどうしよう」ではなく、「低めのミットに投げる」のように、やることを一言で言える形にしておく
- 緊張そのものとの付き合い方は、次の記事も参考にしてください
指導者向け
- 練習試合で「9回裏同点、二死満塁」のような場面を設定し、守る側の投手に、ふだんの間合いを保つ練習をさせる
- 打たれた投手に「なぜ急いだ」と責めるのではなく、試合の映像で準備の時間を一緒に確かめる
- 同じ同点の場面でも、攻める側と守る側では1球の価値が逆になる。守る側の選手ほど、事前に準備の手順を確認させる
研究からわかること・わからないこと
- わかること:外せば即敗退のキックでは、GKから目をそらす行動と、準備を急ぐ行動が多く、成績も低かった。トップレベルの大会の実際の試合で観察された結果です。
- 因果は確かめていない:映像の観察なので、目をそらしたり急いだりしたことが、失敗の「原因」だとまでは言えません。
- 競技の違い:PK戦は、一人の選手が止まったボールを蹴る場面です。動くボールを打つ野球の打席や、捕手と組んで投げる投球とは条件が違います。
- 効果の大きさ:要旨からは成功率などの数値を確認できなかったため、差の大きさはこの記事では示していません。
- 話題との関係:ホワイトソックスやガーディアンズの選手が、実際にどう感じているかを示すものではありません。シリーズの結果を予想するものでもありません。
まとめ
「成功すれば勝ち」と「失敗すれば負け」で、同じプレーの結果に違いが出るのか。PK戦の研究では、外せば即敗退のキックで成績が低かったと報告されています。
そのとき多く見られたのは、GKから目をそらすことと、準備を急ぐことでした。著者らは、失敗を避けたい気持ちがこれらの行動に表れると考えています。
「負けたら終わり」の1球ほど、いつもの準備の時間と、見る場所を守る。それが、この研究から考えられる備え方です(筆者の見解)。
参考文献
- Jordet, G., & Hartman, E. (2008). Avoidance Motivation and Choking under Pressure in Soccer Penalty Shootouts. Journal of Sport and Exercise Psychology, 30(4), 450–457. https://doi.org/10.1123/jsep.30.4.450