ポストシーズンで打順や継投が変わることがあります。自分の役割がはっきりしない状態は、チームのまとまりや「自分はできる」という感覚と関係するのか。バスケットボール選手の研究から、役割を伝える4つのポイントを野球で考えます。
3行でわかる
- MLBのポストシーズンで打順の入れ替えがあり、監督が理由を説明したことを入り口に「役割」を考える。
- 役割の範囲があいまいだと感じる選手ほど、チームのまとまりと守備の自己効力感が低いと報告された。
- 役割を変える時は「範囲・やり方・評価・結果」の4点を言葉にして伝える。
打順が急に変わった。今日はいつもと違う場面で投げると言われた。こうした時、選手は「自分は何を期待されているのか」を考えます。短期決戦では、こうした入れ替えが毎試合のように起こります。
この記事が答える問いは二つです。自分の役割がはっきりしない状態は、チームのまとまりや「自分はできる」という感覚と関係するのか。関係するなら、役割の何をはっきりさせればよいのか。
話題の出典
今日の話題:短期決戦の打順変更と、監督の説明
MLBのナ・リーグ地区シリーズ第3戦で、ドジャースは大谷翔平選手を5番に置きました。MLB.comによると、ドジャース移籍後の大谷選手は1番か2番でしか先発出場していませんでした。相手の先発は左腕のクリス・セール投手で、ドジャースは右打者を打線の上位に並べました。
ロバーツ監督は報道陣に理由を説明しました。記事によると、今回の打順は相手投手への対策であり、選手への信頼が下がったわけではない、という趣旨です。また、この打順は「この試合だけ」で、次の試合では元に戻す見込みだとも話しています。チームはこの試合に3対1で勝ちました。
この記事では、選手本人がどう感じたかには立ち入りません。注目したいのは、「役割が変わる理由と期間を、言葉で伝えた」という点です。これは、スポーツ心理学で「役割のあいまいさ」と呼ばれるテーマにつながります。
論文を読む:役割のあいまいさ・チームのまとまり・自己効力感
今日の論文
Role Ambiguity, Task Cohesion, and Task Self-Efficacy
- どんな研究? バスケットボール選手を対象に、役割のあいまいさが、チームのまとまり(課題の凝集性)や、攻撃・守備の自己効力感とどう関係するかを調べた。
- わかったこと 役割の「範囲」があいまいだと感じる選手ほど、課題の凝集性の2つの指標と、守備の自己効力感が低かった。攻撃の自己効力感には、男女で異なる側面が関係していた。
- ポイント 役割のあいまいさは一つのかたまりではなく、4つの側面に分けて考えられる。
要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。
用語を整理する
「役割のあいまいさ」とは、自分の役割について、はっきりした情報を持っていない状態のことです。この研究は、あいまいさを次の4つの側面に分けて測りました。
| 側面 | 何がわからない状態か | 野球での例 |
|---|---|---|
| 範囲 | 自分の責任がどこまでか | 5番に入った時、走者を返すことが仕事か、出塁が仕事か |
| やり方 | 責任を果たすために何をするか | 二死二塁で、右方向に打つのか、甘い球だけを狙うのか |
| 評価 | 自分の働きがどう判断されるか | 凡退しても進塁打なら評価されるのか |
| 結果 | 責任を果たせなかったらどうなるか | 打てなければ次の試合で打順が戻るのか、外れるのか |
もう二つ、用語を確認します。「課題の凝集性」は、チームが目標に向かって一つにまとまっている程度です。この研究では「チームとしての課題のまとまり」と「チームの課題への個人の引きつけられ方」の2つで測っています。「自己効力感」は、ある課題を自分はやり遂げられるという見込みのことです。この研究では、攻撃と守備に分けて測りました。
結果をどう読むか
要旨によると、4つの側面どうしは強く関連していました。そのうえで、次のような関係が報告されています。
- 役割の範囲があいまいどこまでが自分の仕事かわからない
- チームのまとまりが低い課題の凝集性の2指標がともに低い
- 守備の自己効力感が低い守備で役目を果たせる見込みが低い
攻撃の自己効力感では、女子選手は「評価」のあいまいさが、男子選手は「評価」と「結果」のあいまいさが関係していました。つまり、どの側面が効いてくるかは、攻撃か守備か、誰が対象かで変わる可能性があります。
注意したいのは、これが一時点での関係を調べた研究だという点です。「あいまいだからまとまりが下がる」とも、「まとまりが弱いチームでは役割が伝わりにくい」とも読めます。因果の向きはこの研究からは決められません。関連する集団の自信の話は [[research-collective-efficacy]] でも扱っています。
野球に置き換えると
野球に置き換えると
- 打順が上がった・下がった時:普段2番の打者が5番に入る。研究の「範囲」にあたるのは、走者を返すことが求められるのか、つなぐことが求められるのか、という点です。打順の数字だけでは、範囲は伝わりません。
- リリーフの登板場面が変わった時:いつもは7回の投手が、今日は9回を任される。「やり方」(三振を狙うのか、ゴロを打たせるのか)と「評価」(1点差を守れば十分か)が、ここで問われます。
- 守備位置を一時的に移った時:二塁手が三塁に入る。研究で「範囲」と守備の自己効力感の関係が報告されたことを考えると、カバーに入る範囲や中継プレーでの位置など、守備の責任範囲を具体的に確かめておく意味は大きいと考えられます。
当てはまらない場面もあります。たとえば、本人がすでに役割をよく理解している場合です。研究が扱ったのは「あいまいだと感じている程度」なので、説明を重ねれば重ねるほどよい、という話ではありません。
今日からできること
以下は、研究の結果から考えた提案です。研究そのものが確かめた方法ではありません(筆者の見解)。
選手向け
- 打順や登板場面が変わったら、4つの側面のうち、わからないものを一つ選んで指導者に聞く。たとえば「今日の5番は、出塁と走者を返すことのどちらを優先しますか」。
- 自分の役割を一文で書く。「二死以外で走者三塁なら、外野フライでよい」のように、場面と行動を入れる。
指導者向け
- 役割を変える時は、「範囲・やり方・評価・結果」の4点を短く伝える。とくに範囲(どこまでが仕事か)を最初に言う。
- 変更の理由と期間も伝える。「相手の先発が左腕だから、今日だけ」のように言えば、結果の側面(次はどうなるか)のあいまいさが減ると考えられます。
- 評価の基準を打撃結果だけにしない。進塁打や四球など、役割に沿った行動を何で評価するかを事前に決めておく。
研究からわかること・わからないこと
- わかること:バスケットボール選手では、役割の範囲があいまいだと感じる程度が、チームのまとまりや守備の自己効力感の低さと関連していた。あいまいさを4つの側面に分けると、どの側面がどこに関係するかの違いが見えてくる。
- わからないこと:一時点の調査なので、因果の向きはわからない。対象はバスケットボールで、野球の打順やリリーフの役割にそのまま当てはまるかは確かめられていない。
- 話題との関係:ドジャースの勝敗や選手の成績が、役割の伝え方によって決まったとは言えません。話題は、役割と説明について考える入り口として使いました。
まとめ
役割のあいまいさは、範囲・やり方・評価・結果の4つに分けて考えられます。バスケットボールの研究では、とくに範囲のあいまいさが、チームのまとまりや守備の自己効力感の低さと関係していました。打順や登板場面を変える時は、数字や名前だけでなく、4つの側面と理由・期間を言葉にして伝えることを勧めます(筆者の見解)。
参考文献
- Eys, M. A., & Carron, A. V. (2001). Role Ambiguity, Task Cohesion, and Task Self-Efficacy. Small Group Research, 32(3), 356–373. https://doi.org/10.1177/104649640103200305