ヤンキースが地区シリーズ第2戦の1回に3つの失策を重ねた話題を入り口に、チームメイトの気分と選手本人の気分・プレーの自己評価が連動するかを調べたプロのクリケット選手の研究を解説。ミスの後のベンチの雰囲気づくりを、野球の場面で考えます。
3行でわかる
- ヤンキースが地区シリーズ第2戦の1回に3失策。試合全体では4失策でレイズに敗れた
- クリケットの研究では、チームメイトの平均の気分と、選手本人の気分・プレーの自己評価が連動していた
- ミスの直後こそ、ベンチの声かけと「次の1つのプレー」をチームでそろえる
1つのエラーの後に、もう1つ、さらにもう1つとミスが続く。野球をしていると、そんなイニングに出会うことがあります。そのとき、ベンチ全体の空気まで重くなったように感じた人もいるでしょう。
この記事が答える問いは2つです。チームメイトの気分は、選手本人の気分やプレーの出来と関係するのか。関係するなら、どんなときにその関係が強くなるのか。プロのクリケット選手を調べた研究で考えます。
今日の話題:1回に3つの失策
MLBのア・リーグ地区シリーズ第2戦(現地10月5日)で、レイズがヤンキースに5対2で勝ちました。レイズは2連勝で、勝ち抜けまであと1勝です。
MLB.comの記事によると、ヤンキースは1回の守備だけで3つの失策を記録しました。三塁手がバウンドの打球をはじき、二塁手は併殺をねらった一塁への送球がそれ、その間に1点が入りました。さらに捕手の打撃妨害も失策として記録されています。試合全体の失策は4つでした。
この記事では、ヤンキースの選手がどう感じていたかは推測しません。「ミスが重なる場面で、チームの中の気分はどう動くのか」を一般論として考えます。
論文を読む:チームメイトの気分は「うつる」のか
今日の論文
Catching moods and hitting runs: Mood linkage and subjective performance in professional sport teams.
- 問い プロ選手の気分とプレーの自己評価は、そのときのチームメイトたちの気分と関係しているのか。
- 方法 プロのクリケットチーム2チームの選手が、両チームの対戦中の4日間、1日3回、携帯型のコンピューターに自分の気分などを記録しました。その記録を時間の流れに沿って分析しました。
- 結果 チームメイトの平均の「楽しい・前向きな気分」と、選手本人の気分やプレーの自己評価との間に関連が見られました。この関連は、困りごとの多さや試合の形勢とは別に見られたと報告されています。
要約は野球メンタルラボによるものです。正確な内容は原著論文をご確認ください。
用語を整理する
この研究を読むために、3つの言葉を整理します。
| 用語 | 定義 | 野球での例 |
|---|---|---|
| 気分の連動(ムード・リンケージ) | 一緒に活動する人どうしの気分が、同じ方向に動くこと | ベンチの多くが沈んだ表情のとき、自分の気持ちも下がる |
| 情動伝染 | 他人の表情や声から、同じ感情が自分にも起こること | 声の大きい先輩が明るいと、自分も声が出やすくなる |
| プレーの自己評価 | 選手が自分のプレーの出来を自分で評価したもの | 「今日の守備は10点中6点」と自分でつける点数 |
結果をどう読むか
クリケットは、野球と同じくバットとボールを使う競技です。打者は1人ずつ打席に立ち、守備は全員で行います。1試合が数日続くのも特徴です。この研究は、その長い試合の途中で、同じ選手の気分を何度も記録しました。
研究の結果は、次のように読めます。
- チームメイトの平均の気分ベンチ全体が前向きか、沈んでいるか
- 選手本人の気分チームメイトと同じ方向に動いていた
- 本人のプレーの自己評価気分と一緒に記録された「出来」の評価
さらに、気分の連動が強くなる条件も報告されています。選手がより前向きな気分のとき、そしてチームで一緒に活動しているときに、連動は強くなっていました。追加の分析では、年齢が高い選手、チームへの思い入れが強い選手、他人の感情がうつりやすい選手で、連動が強かったとされています。
ここで注意したいのは、試合の形勢とは別に関連が見られた点です。「試合に勝っているから、みんなの気分がよい」だけでは説明しきれない、ということです。
なお、要旨では相関の大きさなどの具体的な数値を確認できませんでした。そのため、この記事では数値を書いていません。
野球に置き換えると
研究の条件は「同じチームで一緒に活動している選手どうしの気分」です。どの場面が当てはまり、どの場面が当てはまらないかを整理します。
野球に置き換えると
当てはまる例1:1回表、無死一・二塁で遊撃手が送球をそらした直後の内野陣 内野手4人と投手は、同じ守備で一緒に動いています。研究で連動が強かった「一緒に活動しているとき」に当たります。1人の表情や声の調子が、ほかの4人の気分と同じ方向に動きやすい場面と考えられます(筆者の見解)。
当てはまる例2:守備を終えて戻ってきた直後のベンチ ベンチは、9人の気分が一か所に集まる場所です。研究の「チームメイトの平均の気分」は、このベンチ全体の空気に近いものです。
当てはまらない例:エラーした選手1人の、その瞬間の悔しさ 研究が調べたのは、チームメイトたちの気分と本人の気分の関係です。ミスをした直後の本人の気持ちの切り替えは、別の問題です。その切り替え方は、次の記事で扱っています。
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この研究はクリケット選手を対象にしたもので、野球の選手で確かめたものではありません。また、ミスの後の場面だけを調べた研究でもありません。以下は、研究の結果から考えられる提案です(筆者の見解)。
選手向け
- ミスの直後、ほかの野手はまず顔を上げ、次のアウトの取り方を声に出す。「次、ゲッツー」「1つずつ」のように短い言葉を決めておく
- 自分がミスをしたときは、表情をつくる前に、守備位置とアウトカウントを確かめる動作を1つ入れる
- ベンチに戻ったら、「さっきの打球」の話より先に、次の攻撃の打順と作戦の話をする
指導者向け
- ミスが続いたイニングの後、ベンチで最初にかける言葉を、チームであらかじめ決めておく
- 研究では年齢が高い選手やチームへの思い入れが強い選手で連動が強かった。上級生や主将に「ミスの後の声かけ役」を任せる
- 練習のノックで、エラーの後に全員で次のプレーの声を出す流れを繰り返す
研究からわかること・わからないこと
- わかること:プロのクリケット選手で、チームメイトの平均の気分と、本人の気分やプレーの自己評価との間に関連が見られた。関連は、困りごとの多さや試合の形勢とは別に見られた。
- 因果は確かめていない:記録の関連を調べた研究です。チームメイトの気分が本人の気分を「変えた」とまでは言い切れません。
- プレーの評価は自己評価:実際の打率や失策数ではなく、選手自身がつけた評価です。
- 対象の範囲:プロのクリケットチームを中心とした研究です。野球や、中学・高校のチームに同じ結果が出るかはわかりません。
- 話題との関係:ヤンキースの選手が実際にどう感じていたかを示すものではありません。失策が続いた原因や、シリーズの結果を説明するものでもありません。
まとめ
チームメイトの気分は、選手本人の気分やプレーの出来と関係するのか。プロのクリケット選手の研究では、チームメイトの平均の気分と、本人の気分やプレーの自己評価が連動していたと報告されています。
その連動は、チームで一緒に活動しているときに強くなっていました。
ミスが重なった直後こそ、ベンチと守備陣の声かけを「次の1つのプレー」にそろえる。それが、この研究から考えられる備え方です(筆者の見解)。
参考文献
- Totterdell, P. (2000). Catching moods and hitting runs: Mood linkage and subjective performance in professional sport teams. Journal of Applied Psychology, 85(6), 848–859. https://doi.org/10.1037/0021-9010.85.6.848